[株式会社ピノーレ]五味耕作さん

八ヶ岳に新しい「香りのラボ」が誕生

2024年4月、富士見町に製造工場を置く株式会社ピノーレが新しいスタイルの香りのラボ「金熊(きんくま)香水 リゾナーレ八ヶ岳本店」をオープンさせました。香水開発から個人のお客様の少量オーダーまで、香りを生み出す仕事の魅力について伺いました。

オープンしたての「金熊香水リゾナーレ八ヶ岳本店(山梨県北杜市)」

このショップの奥で、白衣を纏って香水製造を行なっているのが、品質管理担当の五味耕作さん。2020年、金熊香水を手がける株式会社ピノーレに入社し、香水の製造や出荷を経験。社外専門家である調香師(※)から香りに関するさまざまなことを学び、現在は品質管理担当として、商品開発や製造などに携わっています。
※香料を組み合わせ、新たな香りを調合する専門家

調香中の五味さん。一滴単位で香りを調整していく

香りのラボ・金熊香水を手がける株式会社ピノーレは1999年に埼玉県で創業。スプレー芳香剤に特化した製造を長く行なってきました。2017年、同社は「香りのものづくり会社」として、ここ富士見町に香水・香粧品の研究所を併設した専用工場をスタートさせました。2000年以降は新事業として香水部門を立ち上げ、八ヶ岳エリアでの事業展開を行っています。

現在、八ヶ岳工場では、フレグランス製品ブランド「AUX PARADIS(オゥ パラディ)」の香水シリーズなど、OEMの香水製造を事業の柱に据えながら、地元事業者の依頼を受け、製品の開発製造しています。

株式会社ピノーレ 八ヶ岳工場外観(富士見町)
(写真:株式会社ピノーレ提供)
八ヶ岳工場の様子
富士見町や八ヶ岳周辺で活動する石けん事業者、バラ農家、デザイナーなど、地元住民がてがける同製品はふるさと納税の返礼品としても人気を博している
(写真:株式会社ピノーレ提供)

五感を使う香水開発・製造の仕事

「この会社と出合うまで、香りのことなんてなにも知らなかったんです」

五味さんは同社との出会いのきっかけを話します。

「もともと理系の出身なので、食品の品質管理や環境分析の仕事に長く携わっていました。次の職を求めていた2020年はちょうどコロナにより緊急事態宣言が発出された頃だったんです。ある会社の内定が取り消しになってしまい、他の採用もうまくいかず、当時は本当に焦っていました。最後のチャンス、できることはなんでもやってみよう、とハローワークに出向いたところ、富士見町にある八ヶ岳工場の募集を見つけたんです」

「会社情報に『エアゾール』と書いてあったのでヘアスプレーなどの品質管理と想像していたら、社長から『いまは香水事業に力を入れているんだよ』と言われて。思いがけずこの世界に足を踏み入れることになったんです」

没頭する楽しさと、届ける喜びを知って

前職でも醸造品などの官能検査(食べたり飲んだり人間の感覚を用いて行う品質検査のこと)を経験した五味さん。その経験から、感覚を用いる作業を得意と感じ、未経験だった香りの分野にもすんなりと関心を抱けたそうです。

「食べたり香ったりする感覚が人より敏感なようです」と話すとおり、入社後から香りに関することを学び始め、ぐんぐんとその実力を発揮。同社の香りづくりには欠かせない存在のひとりとなっています。自身も感覚が必要とされるいまの業務にやりがいを感じているそう。

「ここに来るまで、自分は香りの世界に携わるなんて想像したこともありませんでした。でも、やってみたらこの仕事が純粋に楽しい。『この香りとこの香りを合わせたらどうなるんだろう……』と実験している時間が好きなんです」

法人向けの香水開発から個人のお客様の少量オーダーまで幅広く手がけている同社では、さまざまな「はたらく喜び」を感じられるといいます。

「一人でラボにこもって開発をしているときは、探求したり、実験をしたりといった『没頭する楽しさ』があります。ですが、商品はお客様に喜んでいただいてこそ。たとえば、結婚式の引き出物としてオリジナルの香水をオーダーしていただいたときのことです。お客様から『花の香りがして、でも少し柑橘もあって…』といったように、言葉で伝えてくださったイメージを香りにしてお渡ししたことがありました。つくったものを試していただく瞬間はいつも緊張しますが、答えはすぐにわかります。香りを嗅ぐと、お客様がパッと笑顔になるんです。その瞬間に立ち会えると、『ああ、よかった!』って思えるんです。なにものにも変えがたい達成感があります」

「金熊香水リゾナーレ八ヶ岳本店(山梨県北杜市)」の一角にあるワークショップスペース。オリジナル香水が作れるワークショップを定期的に開催、自分の個性や好みに合わせた香りを楽しめる

みんなで「はたらく」を盛り上げる

「はたらく」場としての株式会社ピノーレはどのような現場なのでしょう。

「弊社代表が理想とする会社は、『より良いクリエイティブは、ストレスのない環境から。社員ひとりひとりが幸せになること』なんです。会社全体で働きやすい職場づくりが行われていると感じます。『だれかに会社をよくしてもらう』というよりも、みんなでこの会社や商品を盛り上げたいと思っています。金熊香水はまだはじまったばかり。自分の感覚を駆使して、いろいろな香りづくりに挑戦できることが楽しみです」

新店舗のスタッフと

スタートしたばかりの金熊香水とともに研鑽を重ねる五味さん。

富士見町の八ヶ岳工場で、調香師の方に言われたこんな話が、今も印象に残っているとか。

「『自然界は豊かで複雑な香りに満ちている。木々が揺れる様子や山の霧などを見ているだけでもインスピレーションが湧いてくる。豊かな自然に囲まれた富士見町エリアで香りの仕事ができることはとても恵まれているよ』とアドバイスをいただいたことがあります。深く納得しました。

そもそも僕自身、子どものころからこの地域で暮らし、山が好きな父に連れられて登山をしたときの木々の香り、苔の感触など、香りづくりのヒントになっている経験がたくさんあるなと感じることがあるんです。どんなに物質にあふれた都市でも真似できない、富士見町だからできる香りがあるのかもしれないと感じる瞬間があります」

最後に、今後の目標を教えてください。

「外部専門家としていらしていただいている方のような、人の心を動かす香りをつくる調香師になることです。そして、香りを評価し、プロデュースする『エバリュエーター』と呼ばれる存在になれたらと思っているんです。それは、入社当時に社長から伝えられた『期待する人物像』でもあります。

私が知っている香りは、まだまだ少ない。香りの世界って、本当に奥深いんです。けれど、この富士見町をはじめとする八ヶ岳エリアの自然の香りを感じて育った僕だからこそつかみ取れる香り、生み出せる香りがある。日々、色々な香りを嗅いで、覚えて、評価して……繰り返し積み重ねて、技術をあげていけたらと思っています」

富士見町でみつけた新しい世界、新しい道。五味さんは今日も八ヶ岳のラボで、香りの世界を探求しています。

株式会社ピノーレ 八ヶ岳工場
【設立】1999年(八ヶ岳工場竣工は2017年)
【所在地】
本社/〒340-0114 埼玉県幸手市東5-18-20
八ヶ岳工場/〒399-0211 長野県諏訪郡富士見町富士見1004-1
【事業内容】香水を始めとした化粧品、日用品の受託製造/化粧品、日用品の企画立案、デザイン、研究、開発
【webサイト】http://labo.pinole.co.jp

金熊香水リゾナーレ八ヶ岳本店
【所在地】山梨県北杜市小淵沢町129-1 星野リゾート リゾナーレ八ヶ岳ピーマン通り1291
【営業時間】10:00〜18:00 年中無休
【webサイト】https://kinkumaperfume.com