[地域活動支援センター赤とんぼ]小林めぐみさん

 集う人の、いきいきとした時間を支えて

「腕を前から上にあげて、のびのびと背伸びの運動…」

JR中央本線富士見駅から車で約3分。「地域活動支援センター赤とんぼ」(以下、赤とんぼ)を訪れると、室内から軽快なラジオ体操の音楽が聞こえてきます。

利用者もスタッフもいっしょになって、ゆるやかにウォーミングアップ。その輪に加わって、小林めぐみさんは周囲に目を配りながらにこやかに身体を動かしていました。

赤い屋根が目印の、地域活動支援センター「赤とんぼ」。八ヶ岳を望む絶好のロケーションが魅力

体操が終ると、フロアに残っていた利用者の一人の様子をしばらく見ていた小林さん、「○○さん、血圧測ってくださいね」と、やさしくひと声。素人はつい、手を貸したくなってしまう場面ですが、小林さんは横につくこともなく、別の準備を進めながら、ときおり進度を確かめる程度です。

「利用者の方ができないことは積極的にサポートしますが、この現場では、『適切に見守る』『待つ』姿勢が大切になります。私が手伝うことは簡単ですが、そこをぐっと堪えて、利用者の方からできることを奪わないように気をつけています」。小林さんの話すとおり、その方もゆっくりと自身で血圧を測り、記録用紙への記入を終えていました。

仕事、家事、育児をこなす三人の子の母でもある小林さん。専門学校を卒業後、20歳で富士見町の社会福祉協議会(民間の社会福祉活動を推進を目的とした事業を行う民間組織/以下、社協)の職員となり、デイサービスや訪問介護などの仕事を経験してきました。

小林めぐみさん

赤とんぼには、配属されてまだ3ヶ月足らず。それでもすでに、その場になじんでいる様子はさすが、社協職員歴17年目というキャリアを感じさせます。

さまざまな障がいがある人の作業支援の場である「赤とんぼ」では、薪割りをはじめ、地域宿泊施設の清掃、石窯焼きパン、ケーキの販売など、社会参加につながる活動が日々行われています。

薪割りをするメンバー

ユニークな取り組みとして知られるのは、おでんや焼き芋の販売。予約制ですが、「リーズナブルで美味しい!」と、その噂を耳にしたことがある人も多いかもしれません。

創作活動のひとつ・書道(写真:赤とんぼ提供)
利用者の書道作品がラベルデザインになった赤とんぼオリジナル商品・染織用の乾燥葉「藍の葉」

この日も外で薪割をする人、カフェの準備を始める人など、利用者のみなさんがそれぞれの持ち場へと移動し、作業を開始。小林さんは、利用者さんとともにカフェスペースへ向かい、午後のカフェで提供するためのワッフルの生地の計量を一緒に行っていました。

冬季限定のカフェ赤とんぼのメニュー・手づくりおでん(要予約)。しっかりと味が染みたおでんは常連客も多い(写真:赤とんぼ提供)
燃焼率が高いと評判の赤とんぼの薪。知る人ぞ知る人気商品だ

そのほか、薪の配達補助や回収した空き缶・牛乳パックの整理など、支援に入る作業は日によってまちまちなのだとか。合間には、イベント告知のチラシづくりなどデスクワークも待っています。

「決められた担当に徹するというよりも、その日の流れのなかで足りない場所に入って見守る、ということが多いですね。来たばかりのときは、どこに入ったら良いのか、動きを掴めなかったけれど、少しずつここでの働き方がわかってきたところです。

ただ、それぞれの障がいに合わせた声かけの方法は、まだまだ。先輩職員に教えてもらって学んでいる途中です」

子連れOKの職場も! 幅広い現場で経験を重ねて

専門学校で介護について学び、卒業後すぐに社協で働き始めた小林さん。そもそもなぜ、福祉の仕事に関心を抱いたのでしょう。

「これ、といった強い理由はないんですよ……。私が高校生のとき進路を考えていたら、『手に職をつけた方がいいよ』と母からアドバイスをもらったんです。もともと、この地域で働きたかった私は『介護なら興味が持てそう』と考え、進路を決めました」

そして社協への就職は、家の近くで働きたいという希望と、訪問介護への関心から、採用試験を受けることにしたのだとか。

「入職してからは、希望どおり高齢者のケアを長く担当していました。けれど、高齢者の入浴介助などが、体力的にきつくなってしまって。上司に相談をしたところ、現在の現場に異動となりました。だから、障がいのある方の現場はこれが初めてなんです」

仕事の楽しさは?との質問には、「うーん、以前はお年寄りと一緒にすごす時間が楽しかったのですが、今はまだ楽しめる余裕がなくて」と、真摯に答える小林さん。

「社協の仕事は高齢者や障がいのある方へのケア、子どもと高齢者をつなぐ企画など、幅広いもの。また、『赤とんぼ』に集う方たちの障がいの種類も、ダウン症、知的障害、精神疾患などさまざまです。そうした、『ケアを必要とする人』への関わりを、仕事をしながら幅広く学ぶことができるのは社協ならではかもしれません」

「社協の魅力はどの現場も自宅から近いこと。これは、3人の子育てをしている私にとって、大きなメリットですね」と小林さん。

「正社員として安定的に働くことができ、出産時には育児休業もしっかりいただきました。スムーズに復帰することができたこともとてもありがたかったです。加えて、今の職場は開所時間が決まっているので残業もほとんどありません。終業後はすぐに帰宅、食事の支度は余裕を持ってできています。以前にも増して、仕事と暮らしのバランスが保てるようになってきました」

「もうひとつ、ありがたいことがあるんです。以前の職場も赤とんぼも、子どもの学校が休みのときは、職場に子連れでもOKなんです。結構、珍しい条件ですよね。毎日ではないけれど、子連れ出勤することもあり、子育て真っ最中の私にとってはとても助かるところです」

誰もが必要な「ケア」の知識を、働きながら身につけられる場

「じつは、うちの子の一人に自閉スペクトラム症の傾向があるんです」

 仕事への想いを語るなかで、小林さんはそう伝えてくれました。

「障がいであると分かっていても、ついイライラして声を荒げてしまったり、日々、悩みや焦りは尽きません。でも、今の職場では先輩たちに自閉傾向の方への関わりを学ぶことで、『この特性、うちの子にもあるかもしれない』とか、『そうか、うちの子にもこんなふうに関わってみよう』と、自分の子への関わりにもヒントをいただくことが多いんです。

たとえば、なにか注意をしたいとき、頭ごなしに『ダメ』というのではなく、『○○だったから嫌だったんだね』など、一度現状を受容してからメッセージを伝えてみる。そんなコミュニケーションの方法は、赤とんぼに来てから家でも意識するようになりました」

この町で、ケアを必要とするすべての人が、一度は必ず訪ねるであろう、社協という場所。しかし、どのようなケアが適切なのか、地域ではどのようなサービスが受けられるのか、必要に迫られるまで知る人は少ないのが現状でしょう。「その点、私はここで働くことで、多様なケアやサービスについて、現場で実践を通して知ることができています。とても心強いことだと感じます。町民の皆さんにも、もっと広報をしていかないといけないですね」と小林さん。

「決して楽な仕事ではないけれど、ここで働き、経験を重ねられることは、私自身の人生にもプラスになっていると思います。赤とんぼでの活動で、『私は調理が好きなのかもしれない』と、自分自身の特性も見えてきました。今後は、ここで働きながら、調理師や栄養士の資格取得にも挑戦してみたい。今、そんな気持ちが芽生えています」

富士見町社会福祉協議会「地域・住民の活動」「介護・障害サービス」「講座・講演・入浴案内」にまつわる事業を行う。2023年、富士見の駅前にオープンした「地域共生センター ふらっと」も、富士見町社協の運営。
地域活動支援センター赤とんぼ「一人一人の個性を伸ばし、コミュニケーションを大切に地場の特徴を生かした商品を創出し、社会参加及び自己実現に向けて支援する」ことを理念とし、2000年に設立。薪材制作・販売、野菜づくり、外部就労や創作活動などを行う。